買い物体験のつくり方

今回はダブルVMDの続編です。
リアルな体験とバーチャルな体験はどうやってつくったらよいかについて触れます。

そもそも体験とは何でしょうか。

当社の保持している日経MJの2013年から今日までの記事スクラップの中で、個性的な体験施策をしている店舗を100社抜粋してみました。
そしてこれらを、空間体験・ナレッジ体験・コミュニティ体験・プロモーション体験という4タイプに分けてみました。
これは前回の買う・学ぶ・交わるという体験行為をより整理しやすくしたものです。

買い物体験4タイプ

それでは体験をタイプ別にみてみましょう。

●●●● 空間体験 ●●●●

100社の中ではこれが一番多く、全体の66%、つまり3/2でした。
店舗デザインやMDP(ディスプレイ)を変えることによって、ブランドの世界観に浸れたり、テーマパークのような楽しさを味わうことができます。

    ・店舗デザインを堪能する

床・壁・天井・什器・照明・通路などの大道具が店舗デザインの構成要因になる。
これが変わることによって、劇場的な効果を得られ非日常の世界を味わうことができる。

    ・MDPを楽しむ

カラフルな陳列や美しいショーイングなど、ディスプレイを楽しむことができる。
スーパーやコンビニなどで見慣れた陳列ではなくて、ディスプレイ自体を見て楽しむ。

事例(企業名/店名/店舗名/内容) =========================

●カインズ/スタイルファクトリー/ららぽーと海老名店/内装テーマは「ライフスタイルDIYショップ」。アイテム別ではなく、例えば「楽カジ」テーマの売場があり、家事を楽にできる道具が、リビングや庭を模したスペースに展開されている。同社のPB商品の見せ方を変えた店舗。
●Sparty/メデュラ/有楽町マルイ1階/オーダーメイドシャンプーブランド「メデュラ」が体験できる店舗をマルイ1階に設置。個人の髪に合ったシャンプーを配合してくれる。物販は二の次という。店内中央に大きなシンクがあり、モノトーンの店内と調和している。
●オートバックスセブン/A PIT/オートバックス東雲/オートバックスの、家族を対象としたトキ消費店。旅と車、スポーツと車、自然と車、家族と車、安心と車、キレイと車、ガレージと車のゾーンに分かれている。ウッディなラックとミドリの人工芝に囲まれたアウトドア的なスペースの中でお茶を飲むこともできる。

●●●● ナレッジ体験 ●●●●

ナレッジとは知識のことで、ナレッジ体験は知識を得る行為と定義します。
これは全体の49%の会社が行っていました。
ナレッジ体験の傾向としては接客の延長線上にあるのが大半で、下記二つの見方があります。

●店舗側からだと

    ・カウンセリング
    ・コンサルティング
    ・アドバイス
    ・レクチャー

●顧客側だと

    ・相談する
    ・質問する
    ・勉強する
    ・知識を得る
    ・商品を試す

などになります。
通常の接客と違うところは、単なるお客様の応対ではなく、会社としてシステム化・シナリオ化しているところです。
お客様が店内に入ってから出るまでをカスタマージャーニー設計していて、その中に組み込んでいます。

事例(企業名/店名/店舗名/内容) =========================

●ロフテー/ロフテー枕工房/本社/SF映画「コクーン」の宇宙船のような場所で1時間位いろいろな枕を試せる。睡眠改善インストラクターが最適の眠りを提案してくれる。
●そごう・西武/きれいステーション/池袋店/化粧品・化粧品雑貨・美容飲料・パナソニック美顔器などを置いた、美と健康の自主編集売場。THREEなど人気のブランドがセルフで試せる。予約をすればショートコースの無料カウンセリングやお験しを体験させてくれる。
●ヤオコー/クッキングサポート/東大和市/時短を求める主婦を対象に手軽に作れる料理法を提案。手作りギョーザキットを使った調理実演では、思わずギョーザを手に取る主婦がたくさん出現。

●●●● コミュニティ体験 ●●●●

顧客同士が店頭で交流するということです。
バイク店やディーラーの試乗会、酒店の試飲会は顧客同士を一堂に会するのでこれに当てはまります。
書店での作家のトークショーなどはファンは集まるのですが、ファン同士の交わる構成ではありません。
その場合はこれにあてはまらず、そういう意味での顧客交流は全体の6%しかなく、意外と少なかったです。
やはり見ず知らずの人といきなり店頭で交わるのは抵抗があるのでしょう。

事例(企業名/店名/店舗名/内容) =========================

●ル・クルーゼジャポン/ル・クルーゼ/ホーロー鍋をカレーで販促。カレー教室をスタジオ併設店舗で開く。参加者同士、楽しみながらクッキングできる。
●クラフティ/蔦屋書店・フライングタイガーなど/ものづくり体験サイトのクラフティが、工芸家に体験講師の場を提供。アクセサリー工芸や革小物工芸などが好きな人が集まり、ワークショップにいそしむ。
●ラッシュジャパン/LUSH/原宿表参道店/一人2.3千円のパーティ券を購入してグループで90分間、ソープ体験ができる。泡ぶろのつくり方や顔や手足の手入れ方法などをプランナーから受講できる。

このコミュニティ体験ですが、事例を見返してみてデジタルの方が適していると思いました。
一堂に顔が見られ、話をするのが恥ずかしい人もチャットは参加してくれるので、デジタルの方がよりコミュニティが深まりそうな気がします。
ただコミュニティ体験は、プロモーショナル体験やナレッジ体験とリンクできます。
トークショーが終わったら顧客同士の交流を促すとか、チームでワークショップをさせるとか、店側が積極的に他の店内体験に仕込めばよいでしょう。

●●●● プロモーショナル体験 ●●●●

店側が販促的に行う体験のことで、イベント、キャンペーン的な要素があるものととらえてください。
店側がイベントとして仕掛ける体験です。
これは全体の38%でした

    ・ディーラーで、家族で塗り絵をするなど、商品と関係ない参加型のワークショップ
    ・VRで工場での製造工程を見る、体験スペースで音と光を堪能する、などのエキビジョン
    ・クイズに答える、アンケートに答えるなどのアトラクション

などがあります。

事例(企業名/店名/店舗名/内容) =========================

●旭化成/へーベルハウス/展示場/アウトドアリビングフェア。展示場にアウトドアライフスタイルを提案。屋上のキャンプサイトでハンモックに揺られることもできる。
●ABCマート/グランドステージ/原宿店/スニーカーを試着し、そのまま記念写真が撮れる「Try On & Show It」。その場にない商品を取り寄せできるロッカー完備。ゾーンも「CENTER STAGE」「BACK STAGE」など個性的。
●イオン/イオンリカー/自由が丘/サイネージを駆使してワインの情報を発信する。ワインボトルをテーブルに置くと、持ち込み可能な付近の店を案内してくれる。

4つの体験をグラフにしてみました。

企業における買い物体験の企画頻度

頻度は空間体験→ナレッジ体験→プロモーショナル体験→コミュニティ体験の順でした。
やはりコミュニティ体験は少ないです。
店頭では限界あるのでしょう。

リアル体験はそのままバーチャル体験に応用できるか

次に、これらリアル体験はそのままバーチャル体験に移行できるか探ってみました。
すると、空間体験以外は33%がバーチャルでも移行可能ととらえました。
つまりリアル体験は、工夫すればデジタルで家にいながらも体験可能なのです。
例えば、下記の事例はデジタル化できるでしょう。

事例(企業名/店名/店舗名/内容) =========================

●サミット/総菜総選挙/「総菜総選挙」は各部門が開発したメニューを、選挙ポスターのようなスタイルで、部門担当者がチラシに登場して訴求する人気企画。
●GU/GUスタイルスタジオ/原宿店/サイネージを駆使して好きな服を試着できる。画面に自分のアバターを設定して着せ替えが可能。GU独自のVRサービス。
●JR東日本/のもの/上野店/地域の生産者が3週間店頭に立つ。新鮮な情報が得られる。方言で接客など臨場感のある面白いシーンに出くわせる。

確かに空間体験はそこに行かなくては体験できないけれど、残り3つの体験は工夫をすれば、オンラインでできそうです。
となると、今後はリアル体験を企画する際は、リアル・バーチャル2方向を見据えたほうが効率的と言えるでしょう。
実際に、ライブコマースやオンライン試飲会などはもう普通になってきています。
今行っている店内体験がデジタルでも可能かどうか、今後は企画しといた方がよさそうです。

空間体験はバーチャルに置き換えられない

さて、バーチャルに置き換えられない体験は、空間体験となりました。
空間体験は、床・壁・天井・什器・照明・通路などの舞台大道具が構成要因になるので、劇場の中にお客様はいるようなものです。

グーグルインドアビューという手がありますが、店内をパソコンで見たくらいでは臨場感がありません。
まあ、VRの精度がディズニーランドのスターツアーズ並みになったらそうではないかもしれませんが。

例えば、売場塾のグーグルインドアビューを見てみましょう。

●売場塾のインドアビュー

どうですか。そんなに臨場感はないですよね。(笑)

今日論じたことを図でまとめます。

買い物体験の4つのタイプの図式化

これからのVMDには二つのVMDがあり、それはビジュアルマーチャンダイジングとバーチャルマーチャンダイジングでした。
空間体験・ナレッジ体験・コミュニティ体験・プロモーショナル体験の4タイプはこんなポジションになります。
空間体験は店舗のみ。
コミュティ体験はバーチャルの方が効率がよさそう。
ナレッジ体験とプロモーショナル体験は工夫すれば、リアル・バーチャルどちらでもできそう、ということです。

VMD担当はどのように買い物体験に関わるべきか

ここであなたはこう思うでしょう。
なんだか面倒くさいな、VMD担当は店頭販促も考えなければいけないの?

もしあなたがVMD専門部署にいるなら、販促部か広告会社に任せてもよいでしよう。
VMD専門部署がやることは、体験スペースを店内に組み込むという作業です。
「店内の空いたところで何かイベントやる!」という業務ではないのです。
体験をショップデザインに組み込んで視覚化することがVMD担当の役目なのです。

ただ「店内の空いたところでイベントをやる」という店は多いです。
プロモーショナル体験を行った38社のうち19社が空間体験とリンクしていませんでした。
つまり、半分の会社が「店の空いたところで何かやる」という状況に陥ってました。
これではもったいないです。
施工会社に空間デザインを丸投げせずに、来店客を体験させる場所への導線を考え、場所もゾーンに組み込み、場所のデザインも特別なものにする・・・ということをVMD担当は考え、施工会社といっしょに行うべきです。

日本のVMD担当者はほとんど販促部の中にいるので、もしかしたら体験そのものを考えるのもVMDの役目でありましょう。
空間デザインを変えてその中に他の3つの体験、ナレッジ・コミュニティ・プロモーションを組み込んだ店舗の方がより私の印象に残りました。。
集計するとその数は37社あり、うまく体験をビジュアル化させて顧客を楽しませていました。

なぜ当社のVMDは、MDP、ショップデザイン、MD、販促体験の4分野になっているのか、これで分かったと思います。

●VMDの4つの分野

「体験自体をビジュアル化する」。
これについては、また機会ある時にお話ししまょう。

(VMDコンサルタント 深沢泰秀)

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