AIで店舗診断はできるか?

0.現場トレーニングは店舗診断が起点

私たちVMDインストラクターは売場づくりの導者ですので、店舗に行くことが欠かせません。
販売スタッフに対して、正しい売場づくりをトレーニングしたり、スタッフと一緒にリバイス(売場の再編集)をするからです。
ショップブランドをキープさせるため、現場研修を販売員向けに行うことも多いです。

そのためにVMDインストラクターはチェーン店各店を回って、売場の改善点を見出し、その克服トレーニングをします。
その起点が「店舗診断」になります。

ただ、店舗診断というと、なにやら統計学分析の匂いがすると思います。
アンケート集計みたいに、売場の悪いところを集計して結論を導き出すという「多変量分析」のような雰囲気ですね。

だとしたら、AIが得意かも。
店内写真を撮ってチャットGPTに組み込み、「店舗診断して」と指示すれば、たちまち診断できそう。

実は、店舗診断はそんな単純なものではありません。
その理由を次に示します。

1.「フレームワーキング」は画一的な診断ではない

当社の店舗診断は「フレームワーキング」メソッドがベースになっています。
●フレームワーキング(R)

フレームワーキングとは、店舗の写真や現場を見たときに、瞬時に頭の引き出しから「フレームワーク(売場づくりの型)」を引き出すものです。
VMDインストラクターの頭の中にはVMDの55の型がストックされていて、それと「現場のたたずまいの是正方法」を瞬時に紐づけるというスキルを備えています。

その結果、できるのが上記のような表です。
私たちは「健診表」と呼んでいて、店舗の健康診断だと思ってください。
売場の隅々まで写真を撮り、それを見て店舗全体でどこが悪いのか一覧表にしているのです。

この行為は実に恣意的なものです。
写真や現実の売場に見えているすべての改善事象を抜き出すのではなくて、
サンプルとしてふさわしいフレームを恣意的に抜き出しています。

コンピューターのように、改善箇所が見えるものすべてを抽出してしまうと
膨大な量になり、改善サンプルとして印象に残らないからです。

例えば、プライスカードのデザインが悪いとします。
すると、店内すべてのプライスカードが悪いということになり、改善点抽出数は500や600は出てしまいます。

一方、VPのテーマ設定が悪い、となるとVPは店内に一つだとした場合、その抽出数は1となります。
POPの直しは100か所なのにVPの直しは1か所。
とてもバランス悪いです。

このように、機械的に店内写真から悪いところをすべて抜き出そう…みたいにしてしまうと、この店は悪いPOPだらけ!という見方になり、かなり偏りが出てしまいます。

私たちの「フレームワーキング」は、写真の中に見えるすべての事象を抜き出すのではなくて、サンプルとしてふさわしいフレームを恣意的に抜き出し整理して結論を出しているんです。

つまり、診断の結果が見る人の印象に残りやすいように、恣意的に操作して健診表をつくっているんです。

2.なぜ恣意的にフレームワーキングするのか?

いやいや、そんなの変だよ。
さっきのPOPとVPの話にしても、改善箇所により変数を代入したら統計分析できるはず、という人がいるかもしれません。
しかし、その変数はどうやって決めるのか、かなり難解です。

しかも後述しますが、店には個性があり固有の「美学」を持っています。
美学は変数で賄えないのです。

確かに「恣意的」という言葉は悪いイメージがあります。
「わざと」「故意に」みたいな感じです。

でも、この場合はいい意味でとらえてください。
VMDインストラクターは、売場を5秒見ただけで、どこが悪いのかチェックできる眼をもっています。
店舗のいろいろなところをくまなく見て、総合的に判断して「この店はこうあるべきだ」という答えを頭の中に描きます。

つまり店舗を見ながら、恣意的な「お店のあるべき姿」を推測します。
それが、その店舗のVMDの基準になります。
それをゴールとして、店舗診断の結果を導きます。
これがVMDインストラクターの恣意的なコンサルティングなのです。

3.美学は恣意的なものが伴う

VMDの美学とは

VMDにはaesthetics(エスセティックス / エステティックス)が不可欠です。
「美学」と訳してください。
この「美学」は店舗ブランドには固有のもので、ブランドによってかなり違います。
人間には個性があるように、店にも個性があります。

個性があるから、伊勢丹の「美学」と、ドン・キホーテの「美学」は違いが出ます。
ドン・キホーテは一見すると「美しくない」と思われがちですが、実は独特の aestheticを持っています。

例えば店舗の特徴は、下記です。

  • 圧倒的な商品量
  • 天井まで積まれた商品
  • 手書きPOPの洪水
  • 狭い通路
  • 宝探し感覚

これは伊勢丹の美しさとは違い、下記のような「何が出てくるかわからないワクワク感」そのものが美的価値になっています。

  • カオス(Chaos)
  • 雑多感(Eclecticism)
  • 発見性(Serendipity)
  • エンターテインメント性(Entertainment)

※ドンキ・ホーテの空間は下記を参考にしてください。
●VMDとは空間のブランディング

さらに言うと、ドン・キホーテとビレッジ・ヴァンガードの「美学」も違います。
同じように、セブンイレブンとローソンの「美学」も違うし、マツモトキヨシとトモズの「美学」も違うのです。
しかもその「美学」は、時代や企業の進む方向性とともに変わるので、ずっと同じではないのです。

各店が持つ、この美学をAIが決められるかというと、そうではないでしょうし、そうするべきではないでしょう。

4.VMDインストラクターは恣意的に売場を良い方向に導く

VMDインストラクター二つの目線

「店固有の美学」はグッチやバーバリーのような確立されたブランドは既に明確に決まっていることでしょう。
国内でも、ユニクロや無印良品などVMDを意識しているブランドなら、「空間のブランディング」として確立されていると思います。

では、商店街の深沢商店や秋田商店の「美的ものさし」はどうすればいいのか。
答えは簡単、そこに訪れるお客様にとって「快場」になっているかどうかで決めていけばいいんです。

前述のように、店舗診断は今ある店をあるべき姿に持っていく診断です。
つまりマイナス部分をゼロにする役目を果たします。
ゼロとは、快く買い物しやすい状態をいいます。

上図を見てください。
VMDインストラクターは、ブランドガイドラインがある店では、ブランドの目線と客の目線の両方で診断するんですが、空間の美学が定着していない店舗は、そこに来る客の目線のみで店舗診断します。

VMDインストラクターは器用ですよー。
右目はブランド目線で、左目は顧客目線で店舗診断するんです。(^^)

この時、「ここはだめであそこはいい」みたいな四角四面的な指導だと、単なる美化衛生委員になってしまうので注意してください。

コンサルらしく、恣意的にゴールに導いてやりましょう。

5.AIは美学をモノにできるか?

まとめます。
ビジュアルマーチャンダイジングは、科学と美学の融合です。

しかも、店舗には人間のように「個性」というものがあり、四角四面で評価することはできないです。

「格好いい店舗作って」
「美しいディスプレイ案を出して」
「美人風のマネキンのコーディネート考えて」

と単純にChatGPTのプロンプトに指示は出せますが、それで出来たあなたの店舗空間は、どこかのお店を似せた偽りの空間になってしまうでしょう。

ただ、下記の作業はAIにできると思います。
機械的で単純だからです。

・陳列を正しく直す
 →色やサイズの順番を並べ替える
 →欠品は補充する
 →商品の向きを正面にキープする
・POPのデザインを変える
 →セール文字を一斉にアカにして大きくする
 →価格を一斉、または部分的に変える
・売れない商品は陳列から除外していく
・売れる商品は陳列面積を拡大する

などなど。
これらの一部はあるコンビニで実験中です。

もしかしたら将来は、店員自体がロボットになって、店内のVMD作業をすべて行うかもしれません。
そうした店は、モノがきれいに整然と並んだ倉庫のような店になってしまうだろうな~と思っています。
アマゾンGOしかり、JR高輪ゲートシティのローソンしかりです。

まあ、店員全員がC-3POかR2-D2だったら、スターウォーズ好きの私としてはうれしいですけどね。(笑)

そんなことで、VMDインストラクターの皆さん、ビジュアルマーチャンダイジングという職業は、今も将来もAIに取って代わられないので安心ください。

自店に固有の「美学」を取り入れたい方は、ぜひ売場塾をご利用ください。
説明会は毎週、セミナーは毎月行っています。

●売場塾無料説明会&セミナー

(VMDコンサルタント 深沢泰秀)