トーンアンドマナーのフィルターで売場デザインを決めよう

あるとき、店内のPOPのデザインを見直す機会があったとします。
POPのデザインがバラパラだからです。

そこでVMDインストラクターであるあなたは、腕の立つデザイナーにPOPを発注するとします。
どのようにしたらよいでしょうか。
下記からひとつ選んでください。

  1. なるべく優秀なデザイナーにデザインを丸投げする
  2. トーンアンドマナーをしっかりデザイナーに提示し監修する
  3. いつもの施工会社に頼んで店舗デザインに沿ったPOPを作成してもらう

答えは2。

そう、トーンアンドマナーをデザイナーに提示して監修するんです。
下記の図を見てください。

●トーンアンドマナーのフィルター

まず、デザインテイストについて説明します。

お客様は買い物をして出るまで店内で短時間を過ごします。
店内で目にするものはPOPだけでなく、商品だったり什器だったり壁紙だったりします。
スタッフも目にしますし、定数定量の佇まいを決めている空間も目にします。
この時、テイストというお客様の感じ方があり、「自然でナチュラル」「クールでモダン」「元気でにぎやか」「フレッシュでみずみずしい」などお店によっていろいろな感じをお客様は受けます。
これを司っているのがデザインテイストであり、デザインテイストはお客様の目に見えるすべてのものが発している感じや気持ちです。
その「感じ」をお客様は五感でハッシ!と受け止めるわけです。

チェーン店VMDは、どこのお店にお客様が行っても同じテイストを感じるように、空間をコントロールしています。
それが空間ブランディングというもので、同じ店なのに一方は都会的で一方は田舎っぽいなんてヘンですよね。
無印良品やユニクロはどこに行っても感じ方は一緒だと感じているはずです。

VMDインストラクターはブランド空間の監修役なので、チェーン店全体のデザインテイストを統一して保つ役目を担っています。

チェーン店においては、POPはPOPデザイナー、商品はプロダクツデザイナー、床・壁・天井は店舗デザイナーなどと役割分担がされています。
ところがデザインにルールがなくて、各デザイナーが好きなようにそれぞれ作ってしまったら、店内はいろいろなデザインでごった煮になります。
そうなると、お客様にとってどの店に行ってもテイストが違うため、店のブランド感はなくなり、よろず屋で買い物している感覚になります。

そうならないために、VMDインストラクターはデザイナーにきちんとオリエンします。
デザインテイストを設定し、トーンアンドマナーを決めます。

「屋根裏部屋のような秘密基地」とか「離島の人のいない自然観」とか「重厚で伝統的だがモダン」のような表現と模写でストーリーボードをつくり、デザインテイストをデザイナーに提示できるようにするなどします。
その上で、下記をチェックします。

「離島の人のいない自然観」の場合では、

  • 「離島の人のいない自然観」テイストが什器デザインに表れているか。
  • 「離島の人のいない自然観」テイストがPOPデザインに表れているか。
  • 「離島の人のいない自然観」テイストが定数・定量に表れているか。
  • 「離島の人のいない自然観」テイストがディスプレイに表れているかどうか。

POPひとつとっても、「離島の人のいない自然観」テイストの下、書体はどうあるべきか、レイアウトはどうあるべきか、POP用具はどんなものがよいのか、考える必要があります。
POPデザイナーにデザイン発注しできたデザインを校正する場合は、デザインがトーンアンドマナーに沿っているかチェックします。

施工会社の設計士と改装について打ち合わせするときは、壁紙の柄、照明の明るさ、什器のデザイン、床のパターンがトーンアンドマナーに即しているのか監修しなければいけません。

これを「トーンアンドマナーのフィルターを通してデザインを見る」といい、店内デザイン物を精査する際、このフィルターを通します。

例えば、下記の茶店は「重快感~伝統の重さと現代的な快感」というデザインテイスを決め、そのフィルターを通して店内空間を監修しました。
●お茶店VMD

ここまで書くと、VMD担当はデザインセンスを身につけ、設計図面を読めたり、コピーを書けたり、色のコーディネート術を身に着けたりと、デザインについての知識やスキルは磨いた方がよいことがわかると思います。
でないとデザイナーや設計者と会話できないどころか、デザイン丸投げになってしまうからです。

「トーンアンドマナーは何か」について分かったと思います。
ところでトーンアンドマナーはショップコンセプトがないと決めることができません。
すべてのトーンアンドマナーは、ショップコンセプトオリエンテッドです。
つまり、「どんなお店にするか」明確化するコンセプトが決まらないと、デザインテイストも決まらず、トーンアンドマナーもつくることができません。

もしあなたの店舗にコンセプトがなかったら、まずはとりあえずでいいのでコンセプトを決めましょう。
でないと、「私はモダンなデザインが好きだから、こんな什器にする」みたいにVMD個人の好みで決めることになりかねません。

(VMDコンサルタント 深沢泰秀)