マーケティング戦略で売れるVMD本を出版しよう

VMDの教科書

今日は本の出版の仕方についてお話しします。
単なる本の出し方ではなくて、あなた個人や会社のビジネス戦略としてどう本を企画するか?についてお話しします。

起業した方なら誰しも「本を出したい」と思ったはずです。
売場塾生も個人として、会社として本を出版している方がいます。
それはこの間のブログでも紹介しました。
●VMDインストラクターの書いた本

私自身も本を出版していて市販本は3冊、自費出版1冊になります。
私の場合、売場塾をやっているので圧倒的にテキストが多くてこちらは9冊。
こちらはこの19年途切れることなく改訂し、出版し続けています

0.本を出す目的と手順

まず本を出したい方は目的を明確にした方がよいです。
単に本を出したいなら自費出版で十分だと思います。

以前ある出版社の自費出版説明会に行ったことがあるんですが、参加者は熱気むんむん、すぐに出版したいという方が多く集まっていました。
占い本を出したい人、旅行記を出したい人など、いろいろな方がいて、次々に出版社と契約されていました。

自費出版というものの、書店の流通に載り小売店に自分の本が置かれ、国立国会図書館にて永遠に保存されるという特典付きです。

ただ、ほとんどの方が、本で儲けるというよりは自分の証を世に出してみたいという動機が多いような感じがしました。
難しいイラストや写真などがないテキストだけの本なら100万円台で出版出来るということで、本を出したい人の夢をかなえてくれる、そんな出版社のシステムでした。

こんなわけで、単純に「本を出す」という既成事実を作りたい方ならこれで十分。
自費出版と言わなければ、「著名な出版社から本を出した!!」ということになるので、人に誇れます。

しかし、自費出版会社も今や大なり小なり出現しているので油断は禁物、準備金や制作費まで取る出版社もあって最終的には高くなる危険性もあります。
そこは十分気をつけてください。

VMD本企画書表紙

さて、今回は私の本「展示と陳列の法則」を題材にして、本の出版をどのように進めたらいいか、手順をお教えします。

  1. 出版社に企画を持ち込む
  2. 競合本を研究する・・・「企画の前提」
  3. コンセプトを決める・・・「本書の内容」
  4. 読者モデルを決める・・・「本の対象」
  5. ポジショニングを決める・・・「ターゲット別シリーズ企画」
  6. コンテンツを決める・・・「構成案」
  7. コンテンツを作る・・・「体裁と要望」
  8. 出版社に入稿する

実はこの順番、書籍企画書を出版社にプレゼンした企画書のページタイトルに準じています。(上の写真は企画書の表紙です)
この項目を見てあなたは「なんか、マーケティングみたい」と思ったことでしょう。
そう、本を出版することはまさにマーケティングなんです。

ほとんどの方が「本を出したい」と思っても、あまり企画を錬らずに出版しているのではないでしょうか。
そして出したことに満足して、ホームページやSNSで紹介しそれで終わり、なんて感じになっていると思います。

それではもったいない。
本を出すことは、下記の効果があるんです。

  • 会社や自分の広報になる
  • 商品やサービスのPRになる
  • 本が商品になる
  • 本が広告媒体になる
  • 本が論文発表の場になる

本を出す前に、これらを念頭に入れてじっくり企画を練りましょう。
そうすれば、「出して終わり」にならずに上記の効果を十二分に獲得できます。

それでは前述の手順通りに解説していきます。

1.出版社に企画を持ち込む

上記手順1~7のタイトルで構成された28ページの企画書を持って、出版社に提案しました。
出版社の選定について、私の場合は知り合いを通じましたが、好きな出版社に飛び込みでもいいと思います。
電話でアポを取ったり、事前に企画書をメール添付するなどしましょう。
私の場合は前職が広告代理店でしたので、出版社に知り合いがある程度いました。
なので、企画書を提案するのは数社に絞り、最後に1社に決めたのでした。

出版社で企画書の説明をした後、編集者からいい返事をもらいました。
出版はすぐに決まりました。
大手出版社の場合、出版の可否は社内稟議になるので、やっぱり精度の高い企画書は作った方がよいです。

2.競合本を研究する・・・「企画の前提」

VMD本「企画の前提」

本を作るにあたって、現状でどんなVMD本が書店やアマゾンで販売されているか調査しました。
普段からVMD本はくまなく読んでいましたので、どの本もだいたい内容は分かっていました。
出版社も「売場づくり」や「ビジュアルマーチャンダイジング」などのキーワードで市場調査してくれるので、だいぶ市場が掴めました。
それには各VMD本の読者モデル別・月別売上推移が提示されているので、どのジャンルの本がどの読者に好まれているかがわかりました。

また、大手書店に行き、どの分類の書棚にどのVMD本が並んでいるか探ってみました。
その結果は、上記の1ページに組み込みました。

VMD本はだいたい次の2つに分類されていました。

●お店・売場づくりの本
  ・・・経営・マーケ・流通業の棚に多く、テキスト中心のカタイ本
●ディスプレイ・VMDの本
  ・・・VMDといってもほとんどディスプレイの本でファッション・趣味的な本

この2つの中間が狙い目だな、と思いました。
そして出す本を下記のように定義しました。

高級店ではない、スーパーや商店のような
 普通の店の売場づくりをオシャレに恰好よく
 アート的に教える本は皆無です。
 当本は、アート・デザインとビジネスの中間
 を行く、新ジャンルの売場づくりの本です。」

つまり、小売りの売上を上げるのが目的のカタイ実務本ではなくて、ビジネス・ノウハウと、アート・スキルを兼ね備えたマルチな書籍を目指しました。

3.コンセプトを決める・・・「企画主旨」「本の内容」

VMD本「企画主旨」

上のページを見てください。
本を出す目的をコンパクトにまとめました。

企画意図)
「売場塾」を本にしたい
企画の背景)
「VMD」はオシャレな職業となりつつある

この企画書って、東日本大震災前に提案した2010年当時でした。
そのころの売場塾生はまだ150名。
今でこそ1,000名近くいるんですが、当時は今の15%。
当然、この本は売場塾のPRのために出しました。

単純な売場塾PRでなく、下記の目的もありました。

  • 会社や自分の広報にする
  • 商品やサービスのPRにする
  • 本自体を商品にする

そこで、切り口を下記のようにしました。

MD本「本書の内容」

そう、VMDインストラクターが教える「VMDの教科書」にしたんです。
つまり、売場塾の卒業生はこの時点で150名しかいないけれど、優秀なブランドのVMD担当が多いので、私というよりも卒業生を取材して売場づくりを語ってもらう本にしました。
シャルマンやエミスフェール、ダッドウエイやダーバンといったブランドVMD担当に協力いただき、たくさんの売場・ディスプレイ写真と共に売場づくりのノウハウを教える教科書としました。

編集者のイメージが湧きやすいように、帯広告のキャッチフレーズを企画書ページに入れました。

それには

「売れる売場をつくり続けているプロ(VMDインストラクター)が教えるVMDの教科書」

とあります。

これがまさに本のコンセプトでした。
最終的にこれらキャッチフレーズをまとめた表紙は下写真のようになりました。

VMD本の表紙

4.読者モデルを決める・・・「本の対象」

VMD本読者モデル

誰を読者にするか?
これは本を出す上でけっこう大事なことです。

皆さんは本を書く時、漠然と「売場づくりに興味がある人」「店員さん」「小売店」などと、対象をしっかり絞らずに内容決めていませんか。

VMDの本を出すから小売店の人、というのはあまりにも対象範囲が広すぎます。

本屋でどの棚に置いてほしいか?そこにはどんな人が来てほしいのか?
アマゾンでは、どのジャンルやページに掲載されるべきか?

を想定しないといけません。

つまり、読者モデルです。
最初、私は上記の企画書ページのように読者モデルを考えました。
それは、小売店、VMD担当者という軸ではありませんでした。

  • ホワイトカラー自分磨き社員
  • ライセンス・カルチャー女性
  • 売上一直線現場販売員
  • こじゃれた店大好き買い物女性

このポジショニングマトリクスを作って、「こじゃれた店大好き買い物女性」以外をターゲットとしました。
「こじゃれた店大好き買い物女性」だと一般女性になってしまい、VMD学校・売場塾とは、ほど遠い縁だと思ったからです。

また、よく考えると「売上一直線現場販売員」も本のコンセプトに合わないと思いました。
前述の通り、売上を上げるのが目的のカタイ実務本ではなくて、ビジネス・ノウハウと、アート・スキルを兼ね備えたマルチな書籍を目指していたからです。

そこで、2次元マトリクスをこのように変えました。

VMD本読者モデル2
  • ホワイトカラー自分磨き社員
  • ヒューマンアカデミー・カルチャー女性

ヒューマンアカデミーというのは、カルチャーセンターというよりも社会人向け各種学校で、読売カルチャーとかNHKカルチャーと違い、深く学びスペシャリストになりたい女性が行く学校です。
なので、少し企画書にその名前を借りました。

こんな感じで対象を絞ってください。
すると、ページ構成やデザインなどのコンテンツの方向性がおのずと出てきます。

5.ポジショニングを決める・・・「ターゲット別シリーズ企画」

VMD本ターゲット別シリーズ企画

次にどんな業界をターゲットにコンテンツを考えるか?をマトリクスに示しました。
やっぱり最初は(1)の「女性」「百貨店・専門店」にしました。
スーパーマーケットやコンビニも流通業界の雄だけど、最初に出すVMD本はやはり百貨店や専門店の売場やディスプレイの方がウケる、と思いました。

確かに売場塾の授業やテキストは、その業界以外にスーパーゃホームセンター、家電量販店、自動車用品店やコンビニなど、業種・業態・取扱商品問わないオムニバスなコンテンツなんですが、企画する本は「アート・デザイン的」という方向性を持っているので、やはり華やかな店の方がよいと思ったわけです。

コンビニやスーパーの方、大変申し訳ありません。
貴社の売場がアート敵ではない、というわけではありませんので、誤解しないでください。

なので、掲載対象にした店はこのように、ブランドショップ、セレクトショップ、百貨店内専門店、になった次第です。

VMDの教科書

さて、上記企画ページを見てお気づきの方は、この企画、シリーズ展開を狙っていることが分かったと思います。(^^)

6.コンテンツを決める・・・「構成案」

次はいよいよ構成案です。
その前にもう一度、コンセプトを整理しましょう。

「当本は、アート・デザインとビジネスの中間を行く、新ジャンルの売場づくりの本」「売れる売場をつくり続けているプロ(VMDインストラクター)が教えるVMDの教科書」

これがコンテンツ全体を覆うフィルターになっています。
冒頭の「快場の章」はまさに当社が目指す売場のあるべき姿。
心地よい売場「快場」とは何かについて語りました。

「陳列の章」と「展示の章」は、大いに売場塾生に協力いただき、売場塾生のブランドショップを取材して、彼ら彼女らのVMDを写真で紹介。
どのように日ごろ売場づくりをしているか語っていただきました。

「ディスプレイの章」は企画書の時点ではあったんですが、陳列と展示とダブるのでやめました。

そして「あなたもVMDインストラクターになれる!」の章では、売場でなくVMDインストラクターその人を取材しました。
売場塾生の皆さん、取材協力ありがとうございました。

7.コンテンツを作る・・・「体裁と要望」

VMD本のページ体裁

具体的にイラストレーターでページをつくってみました。
本のサイズはA4版と大きめのページにしました。
売場写真をふんだんに、なるべく大きく使いたいからです。

この本、VMDのレッスン本という体裁で全部で19レッスンつくりました。
1レッスン4ページとし、最初の見開きが「基本編」、次の見開きを「応用編」としました。
基本編は、売場塾の名物となっているコップ・ワークショップを紹介しました。
コップを使って陳列や展示をつくるというシンプルな表現を採用しました。
コップは、色・柄・サイズ・素材・用途・年齢・季節などいろいろなMD分類要素があるので、万能のVMD教材なんです。
このノウハウを惜しげもなく提供しました。

このページは売場塾の普段やっているワークショップの一部も垣間見えるので、学校のPRにもなりました。
そして売場塾生の所属している会社16社をリストアップして、「基本編」のコップのワークショップで培ったスキルが売場でどのように生かされているか、丁寧に取材し写真をたっぷり使い「応用編」として紹介しました。

企画意図)
「売場塾」を本にしたい
企画の背景)
「VMD」はオシャレな職業となりつつある

つまり前述のこれを具現化したわけです。

8.出版社に入稿する

こんな感じで企画しを練って1年かけて作りました。
とても大変でした。。。。

文章を書くだけならまだいいんですが、

  • カメラマン
  • デザイナー
  • インタビュアー
  • プロモーター

と、すべて1人でやりました。
取材するVMDインストラクターは大手ブランドに所属している人が多いので、まず広報部を通さなければいけません。
その交渉と打合せが大半のページに必要で、本の制作で一番時間がかかりました。

また、本の基本デザインや写真レイアウトも自分で作りました。
広告代理店時代からトコトンやらないと気が済まない性格がよけいな労力を生みました。(笑)

ですので、ページ入稿はすべてイラストレーター、写真のトリミングもフォトショップで調整して入稿しました。
カメラマンもしたので、撮影用にオリンパス一眼レフカメラも買いました。

取材先各社の広報部とやりとりする、取材・写真・本文・色校・ゲラは、私の広告代理店時代を思い出させました。
いい作品を残したいという構えは、起業してからも同じでした。

広告代理店時代のエピソードは下記を読んでください。
●好きなことを仕事にするには

9.本でどんな恩恵を受けたか

VMD本キャンペーンによる売場塾推移

そんなことで本は全国で売り出されました。
結果、下記の目的は「本が広告媒体になる」以外は達成しました。

  • 会社や自分の広報になる
  • 商品やサービスのPRになる
  • 本が商品になる
  • 本が広告媒体になる
  • 本が論文発表の場になる

初回4,500部出版しましたが、2年くらいで売り切れました。
「本が商品になる」機会が多く、1/3は大手ブランドの研修本として売れました。
コンセプトが「VMDの教科書」ということもあり、VMD研修のテキストとして、社員の教養本としてお買い上げいただくケースが続出しました。

この本から売場塾を知り、入学いただく方も多かったです。
売場塾卒業生で起業している方は、自分のセミナーのテキストとして使っていただく方もいました。

上記のグラフは売場塾のコース別生徒数推移です。
緑線がVMD基本コースです。
売場塾サービスが認知され、急激に上昇しているのがわかります。

皆様、大変ありがとうございました。
そして、そして取材に応じていただいたVMDインストラクターに大変感謝します。
クライアントの皆様にもお時間を取っていただいたり、広報へつなげていただいたりと骨を折っていただき厚く御礼申し上げます。

やがてこの本は海外からも出版オファーが入り、中国語に翻訳され、海外出版されました。(下写真)

10.後日談

「シリーズでやっていこう」と意気込んだ私でしたが、あまりにも制作が過酷だったため、2シリーズ目はトーンダウン。。。
とりあえず翌年もう1冊、別の出版社から「商品陳列 最強のルール」を出して、執筆はビジネス誌に戻りました。

最初の本はあまりにも手を入れ過ぎました。。。
通常業務が忙しくなったのもビジネス誌にシフトした理由の一つです。
ビジネス誌執筆は本と違いページ少ないので・・・。

そして今は出版社に頼らない自費出版にシフトしています。
これもなかなかよいですよ。(^^)
自分で製本する自費出版の出し方に関しましては、またの機会にお話ししようと思っています。

ちなみに下記が昨年出した自費出版本です。

●商空間ディスプレイ教本

なお、「陳列と展示の法則」は今は絶版になってしまいましたがアマゾンでは中古で手に入ります。
こちらのリンクから探ってみてください。
●魅せて・買わせる 陳列と展示の法則

ということで、VMDプロの皆さん、本の出し方分かりましたでしょうか。
ぜひ、マーケティング戦略をしっかり立てて出版してくださいね。
すると、自分や自分の会社にプラスになること間違いなしです。
新しい本出したら教えてください~。

最後に、印税がどのくらいあったかお教えします。
印税10%として1,600円の本は160円、×4,500部なので72万なんです。
印税だけで儲けようと思ったら、5万部は最低売れないとダメです。

なので、本を出すのは広告・販促の一種だと思ってください。(^^)

(VMDコンサルタント 深沢泰秀)

プチコンサルで売れる営業をしよう

プレゼンする女子社員

今回はプチコンサルになるためのノーハウをお話しします。
売上をアップさせたい営業や販売の方、起業してクライアントをゲットしたい方にうってつけです。

1.プチコンサルで他社と差別化する

私はもともと広告代理店の営業でした。
当ブログで語ってきたとおり、まったくの新規開拓営業マンで飛び込み専門でした。
VMDの会社を起業した22年前もほぼ飛び込みで新規クライアントから仕事をいただいていました。

その頃の様子は下記ブログ参照ください。
●VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)専門会社をつくったワケ

さて、静岡の広告代理店に在籍していた私の売り物は「静岡新聞」と「SBS」がメインでした。
当時はマス媒体といって、テレビ・ラジオ・新聞がローカル広告代理店の売り物で、静岡県世帯普及率60%の静岡新聞と、静岡新聞が運営するSBSテレビ・ラジオをどこの代理店も売っていました。

売り物は、どこの広告会社も同じ。
こうなってくると、何か差別化しなければ新規開拓はできません。
他人と同じものを売っても、顧客に違いはわからないからです。
当然、競合広告会社と価格競争になり、20%しかないマージンをどんどん減らす消耗戦が繰り広げられていました。

それを避ける方法の一つに「差別化された商品やサービスを開発する」があり、それは別のブログで詳しく語りました。

●ネーミングによるブランド戦略
●マーケティングしなきゃ会社は始まらない

今回は、フツーの営業がフツーに飛び込みして、どのように他社と差別化を図り顧客をゲットできたのか、そのノウハウを違う角度から話します。

それはズバリ、プチコンサルタントになることでした。

2.顧客は情報が欲しい

「静岡新聞の広告どうですか」
「SBSラジオスポットの提供枠が空いているのでどうですか」

こんな営業をしたところで顧客はゲットできませんでした。
まったく飛び込み経験のない上役は「100軒飛び込みすれば、いつかは当たる」などと部下にハッパを掛けます。

これは今あなたがVMDを売り込むときに

「VMDいかがですか?アパレルはみんなやってます」
「VMDを導入すれば売場カッコよくなりますよ」

と言っているのと同じで、まったく説得力がありません。

広告マンである私はどうしたかというと、毎回飛び込み先に情報を持って行ったのです。
それは自家製「ホワイトペーパー」(ホワイトペーパーとは広報誌のこと)でした。

当時も今も、新聞やビジネス誌から為になる記事を片っ端からスクラップしていた私は、その中から顧客が喜びそうな部分をコピーして持って行きました。
そして、世の中のトレンドや話題をお話ししていました。

ただそれだけでした。
それだけで門前払いになる確率は減りました。
中には応接間に通していただき、じっくり話を聴く社長もいました。
毎回、広告勧誘の話は一切せず、ビジネス的な世間話をして帰っていくだけです。

しかし、それを続けていくとやがて小さい仕事が入りだしてきました。
1年も経つと小さい仕事がだんだん大きくなり、売上は上がっていきました。

「クライアントって、ちょっとした情報に喜んでくれるんだな」
と思い、それがどんなクライアントに対しても習慣になりました。

「東京のトレンディな店舗デザインを知りたい」
というクライアントがあれば、1日かけて渋谷や原宿にいき、店舗の写真を撮って差し上げました。

「商店街の活性化になんか方法はあるんだろうか」
というクライアントがあれば、両国国技館の商店街に行き、レポートを提出しました。

昭和の当時は、情報と言えば新聞や雑誌でしたので、トレンドはそこで掴んでいろいろと研究していました。
「スタバが日本に上陸した」とか「マツキヨが女子高生に流行っている」と聞けば、実際に現地に行っていました。

やがて別の広告会社に転職した時、私の情報量は上がりました。
会社は「日経テレコン」と「ビデオリサーチ・ダイジェスト」の会員でした。
好きに読み放題、データ使い放題になったのです。

●日経テレコン
欲しい情報のキーワードを入力すれば、それに見合う新聞記事をFAXで届けてくれるシステム。
今はオンラインになっている。

●ビデオリサーチ・ダイジェスト
ビデオリサーチとは、テレビやラジオの視聴率を調査している会社。
そこの月刊誌で、マス・OOHメディアの調査情報に長けているところが特長。

ここからも広告主が欲しい情報をピックアップし、チャート図を作って発表していました。
例えば、お茶のメーカーなら最新ドリンクのトレンドや、専門学校なら最近のカルチャー傾向やイチゴ世代のライフスタイル特性など。
(イチゴは今でいうとZ世代)

こうした何気ない日常の情報渡しが、顧客のパイプを太くしていくのでした。
中でもおもしろい話があります。

どこかの英会話学校を顧客にしようと、ベルリッツやらECCに営業で飛び込んでいたことがありました。
静岡に大手の英会話学校がたくさん進出していたころの話です。

各校に飛び込みをすると、広告担当が知りたいのは競合校の情報でした。
当時は「ケイコとマナブ」もないし、インターネットもありません。
私ができたことは客のフリして各校を周り、パンフやヒヤリングをしながら、競校の特徴一覧表を作り、狙った英会話学校に提出することでした。

その情報は重宝され、やがて1校から全面的に広告をもらうようになりました。
別のブログでも述べましたが、その後「マナ坊」という学校キャンペーンを企画展開して、英会話だけでなくほとんど著名な静岡内の各種学校の広告を一手に引き受けるようになりました。

こうして情報が私の強力な新規開拓営業のツールになったのでした。

3.顧客はアイデアが欲しい

もちろん、情報をただ持って行っただけでは単なる運び屋になり、それだけでは、他社から広告を切り替えてもらえません。
話はおもしろくてタメになるんだけど、広告代理店は替えない(というか、しがらみがあって簡単に替えられない)という顧客が多々ありました。

やはり決め手になったのは、プレゼンだったんです。
せっせと企画書を書いてプレゼンし、広告を競合から奪取するという派手なことをしていました。

決め手となった企画書は、ほとんど広告企画書ではありませんでした。
企画書の内容は下記だったんです。

・商品開発
・ブランディング
・ターゲッティング
・コンセプトメイキング

など、静岡新聞やSBSなどメディアを売り込む企画と全く違う経営戦略的な企画でした。

実際、お茶や釣り具メーカーに関しては、商品全体のカテゴリー整理と商品ブランディング、専門学校に関してはコンセプトメイキング、英会話学校に関しては講座開発などを行い、プチコンサルするような形で社長や専務など上層部を巻き込んでいったのです。

広告主、特に経営者は「うちの広告を安く出してくれる広告会社がほしい」わけではなかったんです。

「いかにわが社の商品を売れるようにしてくれるか」アイデアが欲しかったんです。
広告を出すことが目的ではありませんでした。

4.顧客はドリルでなくて穴が欲しい

上記のことは、ビジネス書によく書かれている、

「顧客が欲しいのはドリルでなく、穴である」(ドラッカー)
「顧客は早い馬が欲しいのではなく、早く移動したいのである」(フォード)

と同じことです。

これは私が会社を作って自ら経営者になったことで実感しました。
例えば当社に、印刷会社や販促会社が自社商品を売り込みに来ます。

「印刷費を安くします」
「とてもいい紙を使っているんです」
「早く迅速に印刷できますよ」

などとアピールします。
非常につまらない営業をしているな、と思います。

社長である私が欲しい情報は、例えば

  • 売場塾テキストをいろんな業種・業態に合わせられる、自動製本システム
  • テキスト印刷をデジタルテキストして管理する方法
  • テキストをページごとにバラしてワークシート化する方法
  • テキストをいかに全世界に発展させられるか、の翻訳システム

などです。

つまりテキストを印刷するのではなくて、

  • テキストをどう学校以外に活用できるか?
  • 普段書いている理論をどうテキスト化するか
  • 理論を製本することによってどんなサービスが生まれるのか

が知りたいのです。
早い話、印刷することでどういう風に儲けるか?なんです。

印刷会社が印刷をアピールするのは当たり前、私たちはそれ以上の情報が欲しいのです。

5.VMDアプローチもドリルと同じ

あなたがメーカー社員で、VMDを駆使して売場を活性化したいと考えているとします。
やみくもにVMDを導入すればなんとかなる、と考えない方がいいです。
ただ「VMDを導入する」は、ドリルの法則と同じで穴になりません。

具体的に事例を上げましょう。

あなたが生八つ橋のメーカー「聖護園」の販促担当だとします。
京都のドライブインでインショップを営んでいるが、なかなか売上が上がらない。
隣の別メーカー「夕子」や「おたべ」にやられている。

たまたまVMDセミナーに行き、ディスプレイの仕方を教わりました。
でもキレイなディスプレイを売場につくっても売上は上がらないでしょう。
「キレイなディスプレイをつくる」は穴にならないからです。

もしかしたら、価格戦略が違っているかもしれないし、パッケージや商品戦略が悪いかもしれません。

なので、売場のディスプレイを改善するだけでなく、商品ブランド別くくりに編成するとか、パッケージデザインを見直すとか、低価格帯の商品を除去するとかディスプレイと平行して考えられる手段を投入するといいと思います。

もちろん、あなたは会社員なので、商品ブランド別くくりや商品戦略は商品部に相談し、パッケージデザインは宣伝部と一緒にやるべきです。
他部署を動かすには、それなりの説得材料が必要ですが、それは面倒くさがらずに行えばいいと思います。

また、あなたがVMDプロで起業して顧客を得たいならば、顧客の「してほしいこと」を具体化するといいです。
新規顧客は往々にして「VMDを取り入れたい」と言ってきますが、それに対して「VMD研修を行う」という単純な対応にせず、何を欲しているのか「穴」を見つけるといいです。

例えば、メーカー販促部から当社への問い合わせで、「テレビCMなどマス広告でブランディングしているが、売場はいつも汚いのでなんとかしたい」というのがあります。

「売場はいつも汚いのでなんとかしたい」を鵜呑みにして、「掃除・整理整頓しましょう」というVMDを提案するのはナンセンス。
たぶん、上図のように広告や広報を含めた、顧客最前線のスペースブランディングを確立したいということなので、穴は

「来店前に顧客が抱いているブランドイメージを売場でもキープしたい」
ということになり、化粧品メーカーなら、

1.売場づくりをしている美容部員のVMDリテラシー強化
2.インショップブランドとしての売場デザインの確立
3.小売店と連携した売場の場所と形態の確保

というVMDプランが成り立ち、

1.に関しては
・美容部員のVMD研修
・ブランドガイドライン作成

2.に関しては
・什器デザインとその仕様のルール
・壁面・柱オーケストレーションプラン
・POPデザインと仕様の統一

3.に関しては
・小売店へのVMD提案活動
・小売店フロア担当へのVMD勉強会の実施

みたいな仕事に発展させることができます。
もちろん、全部が全部できない、という人はそれ相応の技術ある人とコラボすればいいでしょう。
または、できない部分は提案だけしてクライアントに委ねるのもいいと思います。

6.顧客にソリューションを提供しよう

ということで、静岡県で広告マンをしていたサラリーマンの私は、ほとんど静岡新聞・SBSを売らずに、クライアントの商品開発に明け暮れていました。
売上のほとんどかパッケージ関連と専門誌への出稿だった年を重ねていました。
しかし私が通常営業の2倍は売上を上げていた理由はここにありました。

もちろん、広告主のソリューションの中に静岡新聞が入っている場合は静岡新聞に出稿していましたし、会社のノルマで静岡新聞を買い切りしていた時は、静岡新聞を売っていました。
それは組織の一員だったからです。

VMD専門のオーバルリンクを経営している今は、私のソリューションはVMDのみとなりますが、VMD以外のアドバイスはよくしています。
店名を替えたり、取扱品目を変えたり、商品デザインを見直したりするお手伝いをする時もあります。

さて、プチコンサルをするコツを下記にまとめます。

●顧客は情報を欲しがっている
どんな情報が顧客のためになるか考えてみよう。
顧客のためになる情報を携えて営業しよう。

●顧客はソリューションを求めている
VMDを提案する前に、顧客の求めている結果を考えよう。
その結果に対して何ができるのか提案してみよう。

●経営者目線でモノを考える
社長になったつもりで考えてみよう。
どうすれば商品やサービスが売れるか考えてみよう。

そして、売場塾はVMDインストラクターという資格を認定・付与していますが、もちろん受講生は「資格がほしくて売場塾に来る」だけではなく、

・VMDプロとしてで起業して成功したい
・VMDプロとして社内で活躍したい
・VMDプロとして競合に勝ちたい

という皆様のソリューションは分かっていますので、どんどんアドバイスしますよ~。(^^)
そんな人のために下記の説明会や相談会、無料でやっています。
お気軽にお越しください。

●VMDインストラクターで起業・副業相談会

●売場塾&VMDインストラクター説明会

(VMDコンサルタント 深沢泰秀)