オリジナルな店舗体験をつくろう

買い物体験のつくり方 バーチャルマーチャンダイジングの図

先々月は、リアル店内体験のタイプについてお話ししました。
さて、ここで皆さんが知りたいのは、店内体験ってどうやって企画すればいいのか。
お金かけずにできる体験はどのタイプか。
どのタイプの体験が自店に相性がいいのか、などだと思います。
順を追って話しましょう。

●●●● 体験は空間体験が前提 ●●●●

上図を見てください。
店舗の中には「空間体験」「ナレッジ体験」「コミュニティ体験」があります
「空間体験」というのは、店舗というハコで売っている小売店が顧客に提供する必須の体験です。

空間体験は、ハコをどのようにデザイン演出するかがキーとなります。
いくら商品に人気あるからと言って、蛍光灯の天井下に会議机を並べて売っているような店は気を付けた方がよいです。
自店のブランド感とは何なのか、いま一度考え直してみましょう。

ただ、勘違いしてはいけないのが「改装にカネをかけてハコをカッコよくつくればいい」という安直な考え方です。
それに、店舗デザイナーや施工会社に外注する金銭的余裕がない店舗もたくさんあります。

コストをかけずにハコを変えるにはどうすればいいか。
それは、ある程度のキレイさは保ちつつ、ディスプレイと組み合わせてハコのたたずまいをきれいにするということです。
床・壁・天井・什器・照明の5大大道具のうち、壁と什器に注目し、それにディスプレイを加えます。

  • 壁・・・壁紙を変える
  • 什器・・・什器デザインを変える
  • ディスプレイ・・・オーケストレーション(壁面の集合ディスプレイ)を設計する

これだけで空間は見違えるようになります。
かかるのは什器代くらいで、あとはDIYでできます。
オーケストレーション設計の仕方はこちらを読んでください。

●オーケストレーション設計

●●●● ナレッジ体験 ●●●●

再び上図を見てください。
「空間体験」がなんとかできたら、残りは「ナレッジ体験」「コミュニティ体験」です。
しかし、あとは「ナレッジ体験」だけを考えればけっこうです。

「コミュニティ体験」は顧客を店内に一堂に集めなければできないので、スペースが必要でコストがかかります。
しかも、前回言った通りデジタルと相性がいいので、バーチャルマーチャンダイジングに任せるといいです。

さて、「ナレッジ体験」とは、お酒やお茶、化粧品やカー用品など、暮らしや健康、趣味といった自己に役立つ知識を得られるという体験です。
特に専門店は商品を売るだけでなく、商品を通してどんな暮らしができるかというソリューションを提供する店なので重要です。

ナレッジ体験を推進するためには、ずばりプロフェッショナルプロモーターが必要です。
ただのプロでなくて、プロプロです。

化粧品は美容部員、お茶はお茶インストラクター、ワインはソムリエ、カー用品はエンジニア・・・とプロのプロモーターをお店に駐在、あるいは定期駐在させることが必要です。
これらの人がいないと、ナレッジ体験施策はできません。
ナレッジ体験を来店客にさせたい小売店の方は、自分か従業員をプロプロにすることが必要です。

例えばあなたが酒店店主でクラフトビールに関してのナレッジ体験を作りたかったら、最低一人のプロプロが必要です。
クラフトビールを100種飲んで自分なりに理屈をつくるとか、クラフトビールテイスターの資格を取るとか、プロプロになることが必要です。
単に「俺はビールを飲んでる」だけじゃダメなんです。

プロプロの例は前回の100社調査でもたくさんあって、例えば下記のような感じです。

事例(企業名/店名/店舗名/内容) =========================

●ヤマダ電機/LABI LIFE SELECT/立川/ヤマダ電機の体験型店舗業態。デジタルサポートステーションと称したカウンタがありデジタル機器の相談や修理を行う。近隣に訪問するコンシェルジュ訪問サービスも試験的に導入していて、電気に詳しいプロがコンサルしてくれる。
●ウイングドドウイール/ウイングドドウイール/表参道/1000種類ある紙を試すことができる。ガラスケースの中に標本のように紙が並ぶ。ウエディング需要が8割だったが、大切な手紙を書くという需要に応じている。
●東急ハンズ/東急ハンズ/新宿店4F/4階コーヒー器具売場に販促ブースを設置。向井さんというスタッフがコーヒーのプロプロになっていて、定期的にコーヒーの淹れ方を披露している。おいしいコーヒーも堪能できる。

ナレッジ体験のキーワードは、体験スペースをつくること、そして座らせることです。
店内の空いたスペース、例えば90cm幅の通路でスタッフと顧客が立ち話・・・というのでは、ナレッジを伝えることができません。
他の客の迷惑になるし、あまり長話になると「ここは一元さんだめなのかな」と他のお客様は思ってしまいます。

体験するのに、相談カウンタを置く、洗顔用シンクを設置する、ミニセミナーコーナーをつく・・・などのスペースの確保が必要ですし、パーテーションをつくる、やぐらを設置する、ブース化する・・・などの体験スペースらしい見た目の工夫が必要です。

例えばこんな感じです。

事例(企業名/店名/店舗名/内容) =========================

●ロフテー/ピローウイーカフェ/東武百貨店池袋店/スイーツみたいなピンク色の売場。まくらがさながらお菓子のように陳列されていて見るだけで楽しい。
●インク/インクのコーナー/港北TOKYUショッピングセンター/シャープペンやホチキス、消しゴム、紙などお試しできる。その数10万点。「各社のボールペン験し書き」などイベントも行う。
●ファンケル/ファンケル/銀座スクエア/血管測定で血管内の健康状況を教えてくれる。体力測定ができるフロアもあり、健康ドリンクも有料で飲むことができる休憩スペースもあり。

早い話が、体験を「見える化」するということです。
私が以前企画したインテリアショップは、「すわり心地」というテーマで体験できるスペースをつくりました。

●すわり心地体験

ラフィネリビングさんの場合は、座り心地のプロを店内に配置し、ソファの中身のバネや緩衝材、間取り、ファブリックのデザイン、足の種類を選べるようにオーケイストレーション設計しました。

さて、社内プロをつくって体験を見える化できるスペースをつくったら、あとはプロモーション化するだけです。
ナレッジ体験をなんとなく行うのではダメで、台本をつくらなければいけません。

●企画する ●シナリオをつくる ●セリフをつくる ●小道具を用意する ●回数と時間、参加人数などのKPIを決める

あなたが一商店主でも、企業のプロモーション部長のように企画書を作り、台本をつくってください。

●●●● オリジナルな体験のつくり方 ●●●●

ナレッジ体験のつくり方がわかったら、いよいよ貴店独自のナレッジ体験を立案する番です。
それには、ブランドの7ポジショニングを整理するといいです。
それは、
①企業 ②商品 ③販売チャネル ④サービス ⑤財務 ⑥人材 ⑦広告 です。

ブランドの7ポジショニングはショップコンセプトをつくる際のフレームワークなんですが、体験企画を考える時にも使えます。

早い話、これを自店オリジナル体験のリソース項目として使うんです。
自店の7つのリソースをまず書き出すといいでしょう。
そこが出発点になります。

この7つのリソースの活用例は、店ではなくホテルの例を挙げて話します。

「一泊二日でねぶた祭りを体験できる」というナレッジ体験を施している星野リゾート「青森屋」の例が一番わかりやすいと思います。

この体験企画のリソースは、7ポジショニングのうち、①企業 から来ています。
星野リゾートは、「その立地にある文化と伝承を使って旅人を魅了する」という企業ですから、当然発想は、青森にある立地からして「ねぶた祭」に行きつきます。
これは④のサービスにもリンクしていて、「文化を体験する」という星野リゾートのサービスに帰結しています。

次に⑤財務と⑥人材なんですが、「人件費をかけずにイベントを行う」ということから、当然ホテルスタッフが直接祭を執り行うこととなり、黒子としてではなく、自ら踊ったり唄ったりしています。
これは星野リゾートの⑤の人材の「マルチタスク」という理念がベースになっているからできることなんです。
他のホテルなら踊り子を雇うところなんでしょうが、星野リゾートは一人が複数の役割を兼務しています。

体験のつくり方、だいたいわかりましたか。
このように、ブランドの7ポジショニングを企画のリソースに使えばいいんです。
安易に、「縁日の金魚すくい」や「塗り絵をして遊ぼう」なんて企画しないでくださいね。
体験は、あなたのお店だからこそできるオリジナル企画ではないと意味はないですから。

今日は、店内体験を同企画するかについてお話ししました。
キーワードは下記です。

  • 空間体験
  • ナレッジ体験
  • プロモーション化
  • プロプロ
  • 体験7つのリソース

ぜひ、あなたのブランドならではの体験を企画してみてください。

(VMDコンサルタント 深沢泰秀)